西洋アンティーク家具を購入した方は経験があると思いますが、日本で使っていると西洋の家具は少しずつ歪んでいきます。これはヨーロッパと日本とでは湿度が違うために起こる現象で、特に冬場の乾燥には弱い。繊細なマルケトリーのトレイなどは、マルケトリーがだんだん浮いてきてはがれてしまうことがあります。ひどい場合ですと、トレイ自体がひどく歪んでしまったりひびが入ったりして使い物にならなくなることさえあります。


ただ、これは木が「呼吸している」ことの証拠でもあります。適度な湿度を保つために、湿気の多いときには水分を吸収し、少なくなると放出する。だんだんと歪んでくるのは、日本の気候が夏と冬で湿度に大きく差があるからです。


この「歪み」には家具自体の作りも大きく影響します。作られる段階できちんと木が乾燥してあれば歪みもそれほど大きくはなりません。逆に、乾燥が不十分ですと大きく歪みます。ですから、歪みが大きい品は、それだけ作りが下手(げて)だと言えるでしょう。


ちなみに、現代の家具は殆ど呼吸をしてくれません。これはウレタン塗装が施されているためです。ウレタン塗装を施されたが最後、木が持つ「湿度の調節機能」は失われてしまいます。もちろん、ウレタン塗装がされていなければ大丈夫ですが。


我が家にある家具は、電化製品を除けば全てアンティークなので、1年を通じて湿度が40%から60%に保たれています。これは冷暖房を使っていても変わりません。おかげですこぶる快適です。喉が弱い私にとっては、これが本当にありがたい。アンティーク家具を使い始める以前は、冬場になると必ず1度は喉を痛めてつらい思いをしていたんですね。私の仕事は喋れないと仕事にならない性質のものなので、冬将軍の到来は恐怖以外のなにものでもなかったわけです。それが、アンティーク家具が半分を占めるようになったあたりからぴたりとなくなった。それどころか、職場や通勤電車の中では喉にいがらっぽさを感じていても、自宅に戻ると治まるようになった。「木の湿度調節機能」については知識として理解してはいましたが、ここまで効果があるとは思いもよりませんでした。
            

さて、アンティーク家具にはそれに見合ったワックスを使うのが普通ですが、実は私、ワックスは使っていません。その代わり、日本製の「荏油(えのゆ)」を使っています。これは荏胡麻を原料にした100%天然材料の塗料で、植物油の中では一番乾きが早いのが特徴です。アレルギーに効果があると言われている物質を多量に含み、匂いも少なく手荒れもありません。しかも素人でも簡単に塗ることができ、木の味わいに深みが増してきます。大切な家具に万が一傷を付けてしまったとしても、荏油を塗り込めば傷が目立たなくなりますし、かさついたところに塗り込めばしっとり感が戻ってきます。加えて、これは私が感じているだけかもしれませんが、荏油を塗り込んでおくと湿気による歪みが軽減されるようです。最初に買った薊図のGalleのトレイの場合、ワックスを使っていた時は少しずつ歪みが進行していましたが、荏油に変えた途端、歪みの進行が止まりました。これは荏油が木材の中までしみこむからだと思うんですね。つまり、水分の代わりに荏油が木の歪みを抑えてくれているというわけです。


木の家具は生まれ育った土地で使われるのが最も長持ちします。日本に来たというだけで相当のストレスがかかっているわけです。そこに西洋生まれのワックスを使ってしまったのではストレスの上塗りではないかと、私は思うわけです。日本の風土になじむように、日本製の、同じ植物から生まれた荏油を使うことは理にかなっているように思えます。


いずれもイギリス製で
左から
Cigarette Box
Stanp Box
Metronom