フレデリック・ヴェルノン考

先日、オークションでクラバット・ピンを落札しました(写真左)。「18金で若い女性が描かれている」という説明があったものの、ピン自体が汚れている上、掲載されていた写真があまりにもピンぼけだったために、驚くほど安価で落札できました。届いてみたらFrédéric Vernonの作。正直、これには自分でも驚いてしまいました。


実は、このクラバット・ピンに入札しようと思ったのは、ピンぼけの写真を見たときに「もしやこれはVernonの作では?」と直感したからなんです。理由は二つ。一つはメダルの形がVernonの代表作『夜』と同じであったこと。もう一つは、女性が漂わせている雰囲気です。


「女性」はアールヌーボーの時代の主要なモチーフの一つです。作家によって描かれる女性像に特徴があり、そこが面白くもあります。例えば、Piel Frérésの作品には「ムッとした表情の女性」が多く見られますし、Felix Rasumnyの作品に登場する女性達は鼻からあごにかけてのラインに非常に特徴があります。


では、Vernonの描く女性達にどのような特徴があるかというと、実は見た目で「これ」とはっきり指摘できるような特徴らしい特徴は見受けられません。面長の人もいれば丸顔の人もいる。中にはかなりがっしりとしたあごを持った女性もいます。強いてあげれば「頬がふっくらとした女性」が多いかもしれませんが、これとて際だった特徴というわけではありません。


誤解を恐れずにはっきり申し上げれば、Vernonの作品に登場する女性達は、全部が全部「美人」というわけではないんです。にもかかわらず、その女性達を見ていると「美しい」と感じる。では、その美しさの源はどこにあるのか。

                        

Vernonの描く女性達には「品格」があります。しかし、これとてもVernonの作品の特徴であると言い切るのは難しい気がします。Emile DropsyやOscar Rotyは私の好きなメダル作家ですが、品格という点で言えば、DropsyやRotyの作品にもそれは当てはまります。では、Vernonの作品の特徴はどこにあるのか。


私は「内面の表出」にこそ、Vernon作品の特徴があるのではないかと考えています。作品を作る際にはおそらく誰かをモデルにしていたかと思うのですが、そのモデルとなった女性の内面、特に「知性」を非常に巧みに切り取っているように思えます。『夜』や『夢』といったエロティックな雰囲気をたたえた作品にさえ品格が漂うのは、作品中の女性に「知性」が感じられるからです。そういう点から考えると、非常に希有な作家であると言えます。


近年、Vernonの作品に対する評価が急激に高まっています。彼の作品の素晴らしさを考えるとこれまで評価されなかったのが不思議なくらいですが、ある意味それも当然だと思えます。アールヌーボーの作家としては、作品が非常にオーソドックスなスタイルですし、派手さもありません。「ひっそりとそこに佇んでいる」といった風情です。けれども、彼の作品から漂ってくる雰囲気は、私の心をしっかりと捉えています。


「女性の品格」という本がベストセラーになりましたが、本当の品格っていったい何なのでしょう。Vernonの作品を見ていると、そんなことを考えたりします。