ジャンヌ・ダルク

カナダのシンガーソングライターで、詩人でもあるレナード・コーエンが書いた『Joan Of Arc』という曲の中で、火あぶりにされようとしているジャンヌと、彼女の身を焼こうとする「火」との会話が描かれています。


“Well, I'm glad to hear you talk this way,
I've watched you riding every day
and there is something in me that yearns to win
such a cold, such a lonesome heroine”.

"And who are you?" she sternly spoke
to the one beneath the smoke.
"Why, I'm fire," he replied,
"And I love your solitude, I love your pride."

"Well, then, fire make your body cold,
I'm going to give you mine to hold."
And saying this she climbed inside
to be his one, to be his only bride.


こうしてジャンヌは「火」のたった一人の花嫁となるべく炎に包まれてゆく・・・ある意味、なんともエロティックな会話です。


ジョルジュ・バタイユの著書『エロティシズム』の中で、エロティシズムが「死におけるまで生を称えること」であり、我々人間が「極限において(我々は)生をおかすものを決然と欲する」と書かれていますが、レナードの『Joan Of Arc』に描かれたジャンヌと火との関係はまさにこれだと思うんです。


甚だ不謹慎ではありますが、以前からジャンヌ・ダルクという女性は強烈なエロティシズムを放つ存在であると、私には思えてなりませんでした。極端なことを言ってしまうと、宗教美術における人物像にはことごとくエロティシズムというものが潜んでいるのではないかとすら考えています。


私のコレクションの中にジャンヌ・ダルクが少ないのは、実はこの「エロティシズム」が原因だったりします。姿が凛々し過ぎるんですね。その眼もまっすぐ前を見据えているか、少し上を向いているかしている。


写真のLouis Ernest Barriasのブロンズは、両手を鎖で繋がれた「囚われのジャンヌ・ダルク」の全身像をもとに作られたものです。視線をわずかに下に落とし、どこか疲れた表情をしています。長きにわたる戦いによる疲労と、これから待ち受ける火刑に対する諦観。炎に焼かれる瞬間のように強烈なものではありませんが、そこはかとないエロティシズムが漂っています。


イングリッド・バーグマンは映画の中で2度ジャンヌ・ダルクを演じたことがあります。私が見たのはビクター・フレミング監督作品の方です。映画自体は退屈極まりなかったものの、彼女が演じたジャンヌ・ダルクには強烈なエロティシズムが漂っていました。どちらかと言えば知的で意志が強そうな印象を抱かせる女優さんですが、家庭を捨ててロベルト・ロッセリーニ監督のもとへ走るという情熱的な一面も併せ持っていました。演じることが大好きで、死の直前まで舞台に立ち続けた人でもあります。若き日に禁止を侵犯し、死におけるまで生を称えた・・・バタイユが言うところの「エロティシズム」を体現した存在である彼女ほどジャンヌ・ダルクを演じるのにふさわしい女優はいないと、私は思っています。ミラ・ジョヴォヴィッチではまだまだ役不足でしょう。