ジャポニズム

私の銀器コレクションはアールヌーボーが中心ですが、質の高いジャポニズムの品に出会った時はできる限り手に入れるようにしています。


日本ではジャポニズム・スタイルの銀器は(Tiffanyは別として)、さほど人気のあるアイテムではありません。Tiffany以上に素晴らしいGorhamのジャポニズム・スタイルの銀器に全く注目が集まらないという事実が、それを物語っています。


当時、日本の金工技術は世界一と言っても過言ではないほど優れていました。あのLibertyが日本に製品を発注しているくらいです。だとすれば、日本の質の高い銀器を入手した方が間違いがない。ところが、日本ではそもそも明治期の工芸自体の評価が低く、人気がない。骨董的価値を認識され高額で取引される江戸期以前の品物と、レトロブームに乗って手ごろな価格で取引される大正期・昭和初期の品物の間に挟まれ、明治期の工芸品は不当なほど過小な評価を受けています。このような状況ですから、日本でジャポニズム・スタイルの銀器に注目が集まらないのは当然の流れと言えます。


明治期の工芸品については、むしろ西欧諸国の方が正当な評価をしています。しかも人気が高い。数年前にジャポニズムが再ブームを巻き起こしたこともあり、日本の銀器のみならずジャポニズム・スタイルの銀器も価格が高騰する傾向にあります。

        

ジャポニズムのきっかけとなったのは1867年のパリ万博です。それまで単なる異国趣味の一つに過ぎなかった「日本趣味(この段階ではジャポネズリと呼ぶ)」ですが、この1867年のパリ万博に江戸幕府が出品したのがきっかけとなってブームに火がつき、1878年のパリ万博でそのブームはピークに達します。
                                           

日本の側から見ると、ジャポニズムは単なる流行の一つにすぎないかのように見えますが、実は、ルネサンス以降の形式至上主義を打破する起爆剤となったことや、その後の芸術に多大な影響を与えたことなどによって、西欧ではかなり重視されています。アールヌーボー以降になりますとジャポニズムは西欧に於いて吸収、咀嚼され、はっきりそれと区別できなくなってきますが(区別すること自体に意味がないと言えます)、それでも、アールデコの時代には「青海波」や「市松模様」など、日本の影響を受けたとはっきりわかるジュエリーが制作されており、「ブーム」という言葉ではすまされないほど長期にわたって影響を及ぼしていたとことが伺えます。


日本の銀器に比べれば、ジャポニズム・スタイルの銀器の多くは確かに稚拙かも知れません。それでもそこに魅力を感じるのは、それなりの理由があるからです。


ジャポニズム・スタイルの銀器を見ていると、そのデザインに「西欧の目から捉えた日本」を感じます。そこには、それまでの形式から抜け出すために未知の価値観や美意識をどん欲に吸収しようとする作家達、職人達のエネルギーが感じられる。そのエネルギーが、アールヌーボーやアーツ&クラフツ、ユーゲントシュティルといった新しい芸術運動に結実しているように思えるのです。


未知なるものに対しても「良いものは良い」と評価する柔軟な考え方、審美眼。


ジャポニズム・スタイルの銀器は、現代の私たちに実にさまざまなことを問いかけてきます。


左がドイツ製のジャポニズム・スタイルのスプーン
右が明治期の日本製のスプーン
どちらも背景が和紙のように加工されています
比べてみると技術の違いが歴然!

ドイツ製と思われる
ティーポットとミルクピッチャー
日本製に迫るクオリティ