カフリンクス

日本では「カフスボタン」と呼ばれていますが、英語圏では「カフリンクス」と言います。ただ、「カフスボタン」という言い方もあながち的はずれなわけではなく、フランス語では「Bouton de manchette(=袖のボタン)」という言い方をします。アメリカでもまれに「カフボタンズ」という言い方をする方がいらっしゃいますし、カフリンクスの種類によって、ダンベル型のものやスナップ型のものを「カフボタンズ」、鎖(Link)で2つのボタンがつながれているものを「カフリンクス」と呼び分けている業者さんもいらっしゃいます。

ダンベル型のカフリンクス Foster & Bailey社の金メッキの品

現在、カフリンクスをつけるとなるとダブルカフスのシャツが主流です。時折、付け合わせのボタンでもカフリンクスでもOKというシングルカフス(コンパーチブルカフス)のシャツも見かけますが、やはり主流はダブルカフスです。ところが、19世紀の頃はシングルカフスが基本で、バリバリに糊付けしてカフリンクスで袖をとめていたのだそうです。20世紀に入ってスーツやシャツがビジネスウェアとして定着すると、バリバリの袖がじゃまになってきて、袖の糊付けを手加減するようになります。そうなると、カフリンクスで袖をとめるとふにゃっとなってしまって具合が悪い。そこで考案されたのがダブルカフスなんだそうです。従って、現在でも正式な席ではバリバリに糊付けしたシングルカフスが基本です。また、ダブルカフスは、もともと柔らかい袖にカフリンクスを用いるために考案されたものですから、本来はふわりと折り返すのが好ましいそうです。クリーニングに出すと、ダブルカフスはバリバリに糊付けされて返ってきますけれど、これは大きな間違いと言うわけです(笑)。


私はカフリンクスの中でも、「2つのボタンが鎖でつながれたタイプ」のものが好きで、このタイプを中心に集めています。ダンベル型やスナップ型に比べると、留めるときに手間がかかりそうですが、実はそうでもありません。アールヌーボー期のカフリンクスは、それ以後の品に比べると鎖がやや長目にできているんですね。ですから、先にカフリンクスで袖を留めておいて、その後からシャツに袖を通すことが可能なんです。カラダに比して手がごつくてでかい私でも大丈夫(笑)。翌日、カフリンクスを使おうと思ったら、前の晩にカフリンクスを袖に留めておけばいいわけです。実際、袖周りがゆったりしていて、仕事をしていてもじゃまになりません。


前の職場では、毎日ダブルカフスのシャツで仕事をなさっている方がいらっしゃいました。もちろん袖にはカフリンクス。アンティークのものもあれば、現代物で優れたデザインのものもありました。黙っていると本当にダンディな方でした。黙っていれば・・・です。口を開くとオヤジギャグ連発なので(笑)。

マーガレット・ハウエルのシャツに
クローバーのカフリンクス
ポール・スミスのシャツに
ナスタチウムのエナメルカフリンクス
ポール・スミスの蔦柄のシングルカフスシャツに
Vernonのカフリンクス


カフリンクスの始まりは17世紀のフランス。袖口に装飾的な飾りボタンをつけることが王侯貴族の中で流行したのがきっかけです。19世紀に入ると貴族階級の没落、中産階級の対等により、身分によるファッションの差が縮まり、それまできらびやかだった男性のファッションが簡素で機能的、かつ、ストイックなものに変化していきます。宝飾品も指輪、ステッキ、時計、タイピン、カフリンクスといったものに限られ、1840年代になると、それまで貴族のものだったカフリンクスも平民にまで普及していきます。


このことをふまえて考えてみますと、ヴィクトリアンやアールヌーボーのカフリンクスで「女性用」というふれこみで販売されているのをわりと頻繁に見かけますが、どんなに装飾的であっても、やはり男性用と考えた方がいいのではないかと、私は思っています。女性用のカフリンクスが作られたのは、女性の社会進出が進み、ファッションも大きく変化したアールデコの時代になってからと考えるべきでしょう。


アールデコの時代から活躍した女優に、私の大好きなMarlene Dietrichがいます。男装した彼女が煙草をくゆらせている有名な写真がありますが、本当にカッコいいんですよね。袖にはしゃれたアールデコのカフリンクス。Marleneは女性用のスーツ姿でもカフリンクスをして写っている写真がありますが、それも本当にカッコいいんです。凛とした空気が写真からも伝わってくる。本当のカッコよさというものは、やはり「信念」だとか「生きざま」だとか、そういったものが伴っていなければだめなんだとつくづく思います。全然修行が足りませんね、私(笑)。