遠出

ここ数年、仕事の関係で年に数回は遠出をしています。


飛行機が苦手な私ですから、移動は常に電車と言うことになります。長時間電車に揺られることが苦痛な方もいらっしゃるようですが、私は全く苦になりません。窓の外をぼーっと眺めたり、コーヒーを飲みながら考え事をしたり、鞄に忍ばせた文庫本を繙いたり。普段、仕事に追われてせわしない時間を過ごしている分、遠出をするときは贅沢に時間を使っています。時間に余裕があるときは車内食堂で食事をします。車窓を流れてゆく風景もご馳走の一つです。


時間を贅沢に使っていると、普段は気にも留めないような些細なことにも目が向いてゆくのを感じます。と同時に、些細なことに目を向けている自分を楽しんだりもしています。


「旅行の楽しみは旅行の計画を立てているときにある」と言いますけれど、私の場合、行ってみたいなぁと思うところを一つか二つピックアップするくらいで、綿密な計画は一切立てません。計画通りに見学地を回るというのは案外疲れるものですし、計画が狂ってしまうとストレスを感じてしまいますし。そのときの自分と相談しながら、行き当たりばったりで行き先を決めて、気に入った場所でのんびりと過ごします。以前、仕事で2回ほど長崎を訪れたことがありますが、最初に行ったときにはグラバー園へたどり着かなかったんですね。グラバー園までの見学地が面白すぎて、時間切れになってしまった(笑)。ですから、2度目に行った時はグラバー園をスタートにしました(笑)。京都では嵯峨野の直指庵で、霧雨を眺めながら2時間あまりぼーっとしていたこともあります。


元来、出不精の私ですから、行き先が「初めての土地」である場合が殆どです。「初めての土地」というのは本当にわくわくします。実は私、「初めての土地」に出かけるときは、地図を持って行きません。前もって自宅で行きたい場所の位置を確認しておくだけです。道に迷うこともありますが、「初めての土地」ではそれすら楽しい。道に迷ったおかげで思いがけない発見をすることが必ずありますから。実際には、方向感覚が比較的発達しているのか、滅多なことでは迷わないんですけれど。
              
             

どんな土地に行ったとしても、必ず立ち寄るのが「スーパーマーケット」と「地元商店街」です。観光地ももちろん魅力的なんですが、それ以上に「地元の暮らしが覗けるところ」が好きなんです。置いてある品物を見るのも楽しいですし、買い物をしている人を見るのも楽しい。特に「地元商店街」は大好きで、お店で買い物をしたついでに店主さんと長話をすることも珍しくありません。店主さんからお国訛りを聞けるのも楽しみの一つです。


その土地の空気になじんでしまうのも私の特技かもしれません。ぼーっとしていて隙が多いからなのか、必ずと言っていいほど旅行者の方に道を聞かれます。韓国に旅行した時などは(飛行機嫌いの私にとって唯一の海外旅行です)、わずか2泊3日の間に3回も道を聞かれました。確かに私の顔はモンゴル系です(笑)。


写真は19世紀に作られた携帯用の羅針盤。革製のケースも完全な状態です。文字盤がマザー・オブ・パールでできているので、それなりの地位にある人が持っていたものでしょう。いつか時間がたっぷりと取れたら、この羅針盤を腰に下げて、羅針盤と相談しながら旅行するのも悪くないなぁと思っています。