クラバット

英米で「スティックピン」と呼ばれているジュエリーが、正確には「クラバットピン」と言うことはすでにご紹介したとおりです。今回は本体である「クラバット」、すなわち「ネクタイ」について、その歴史をご紹介します。


ネクタイの起源は17世紀後半にさかのぼります。フランス国王ルイ14世に仕えるために出向いてきたオーストリアのクロアチア兵(=クラバット)が、おそろいの布を首に巻いていました。この布は階級を示したり同じ軍隊に所属していることを示したりするものでした。ただ、今のネクタイのように結ぶのではなく、スカーフのように「1枚の布を首に巻く」というスタイルでした、で、余った部分がネクタイのように垂れ下がっていたというわけです。


これに注目したのがルイ14世です。さりげなく闘志をアピールしていて、しかもスマートなクラバットを見たルイ14世はたいそう気に入って、早速自分のファッションに取り入れます。時の王が身につけたことで、王侯貴族、軍人、そして一般庶民へと爆発的に広まっていきます。その後19世紀初期まで流行していたそうです。


その後、ストックという襟飾りが登場。これは蝶ネクタイの原型となったもののようで、あらかじめ結び目が作ってあるものを襟の後ろで留めたのだそうです。蝶ネクタイという形で出現したのが1850年代。1870年代にはアスコットタイが生まれ、1890年代に入って「フォア・イン・ハンド」、すなわち今のネクタイが誕生したと言うことです。


もともと兵士がつけていた布がネクタイの起源だとすれば、現代の「企業戦士」たちがスーツにネクタイという出で立ちなのもなんとなく納得してしまいますよね。ちなみに、「ネクタイ」という呼び方は英語圏と日本で用いられているもので、フランス、ドイツ、イタリアなどでは今でも「クラバット」と言うそうです。


で、ですね。日本にネクタイを伝えたのはジョン・万次郎であるというのが定説になっています。1851年に万次郎が帰国した際、奉行所で行われた取り調べの記録が残っており、そこに「白鹿襟飾」という記述があるんです。この「白鹿襟飾」は時代的に考えて、おそらくクラバットかストックであると考えられます。


当時のクラバットやストックは上質の麻で作られており、色は白がほとんどでした。現代でも燕尾服には麻か綿で作られた白の蝶ネクタイを合わせますが、これは当時の風習がそのまま残っているからなんだそうです。様々な色や柄のネクタイが登場するのは19世紀半ばになってからです。

                       
    Paul SmithにRasumnyのピン     Sonia RikielにFoisilのピン      NicolにVernonのピン       新井淳一にLaliqueのピン
     木の実にジャム瓶の図柄       大胆な薔薇の花の図柄      クラシックなパッチワークのタイ   アールヌーボーらしい曲線の図柄

写真はお気に入りのネクタイに、これまたお気に入りのクラバットピンを留めてみたものです。右端のネクタイは、世界的なテキスタイル・デザイナーである新井淳一さんのオリジナル。彼のアトリエがなんと私の地元にあるんですね。で、アトリエの近くに私設の美術館がありまして、そこでしか手に入れることができないというレアなアイテムなんです。2色のグレーだけを使った渋い品なんですが、さすがとしか言いようのない美しさ!でも、合わせるシャツやスーツが難しいんですよね(泣)。